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はじめに

概要

このブログは過去に斧田小夜、もしくはその他の名義、匿名で公開した文章を掲載しています。随時加筆修正などを行なっているので、掲載当時と同じ文章ではありません。

主に下記に掲載したものを気が向いた時に公開しています。

注意

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去年SFコンテストの一次選考通過したやつですが、もはや他に投稿する場所も見つからないのでぼちぼち星空文庫に出していこうかなと…当時の最終稿から大幅に加筆修正してますが、まだまだ出るわ出るわボロが…

深夜の客人

 僕は寂しさを覚えた。
 それは唐突にやってきて、しかも去っていかなかった。僕は困惑してなぜだろうと思った。
 辺りは静かだ。太い大きな道路がすぐそばを走っているが、深夜ともなれば交通量は減る。終バスがいってしまえば、この一体はしん、と静まり返ってしまうのだった。その中で僕はコーヒーを飲み、文字をつづっている。寂しさはそこに突然やってきて、僕の袖を引いたのだった。
 なぜだろうと僕はまた思った。
 この生活は満ち足りている。部屋は広くなったし、好きなものはそろえたし、ほしいなと思うものはあるけれども、すぐに必要だとは感じていない。仕事には満足しているし、でも夢はあるし、衣食住は足りている。それでなにをさびしいと思うことがあるのか。
 でも僕は、さびしかったのだった。今この部屋に一人、こたつに足を突っ込んで鼻歌を歌っている自分自身が、奇妙に思えてならないのだった。空気は唐突に手触りも温度も失って、ぴっちりとサランラップにくるまれているような錯覚をする。僕の意識が浮かび上がり、遠くから僕の背中を見つめている。宙に漂う感覚。もしかしたら、誰も僕のことを知らないかもしれない。僕はこの世に存在していなかったかもしれない。そんなばかげたことを、一瞬本気で考えてしまう。


 このままではだめだと僕は思った。はっきりと理解した。
 僕はひとりでも生きていけると思っていた。このまま寄り添う相手がいなくても、どうせ僕には孤独が寄り添っている、その慣れ親しんだ友とともにこの人生を生き延びることはできると思っていた。でもだめだと、その瞬間にわかってしまったのだった。


 さみしい。


 僕は背を丸めて笑った。あれだけ誰かと生きていくのにはむいていないと思い知らされたのに、僕は時々それを忘れてしまう。でもたぶん、むいていないと思い知らされるだけだとわかっているのに、僕はきっとなんどでも、同じ間違いを犯すだろう。

(2013.01.31)
(2014.06.18 加筆修正)

時を渡る

 僕が頭を引っ込めると、青年は窓ガラスに額をくっつけ、おまけに両手の手のひらさえもぺたりと押し付けて、眼下を覗きこむのだった。
 前の席に座るがたいのよい、緑色の目をした青年。金髪の巻き毛が広がり、頭の大きさが二倍くらいになっている。彼の頭が引っ込むと、僕は不思議と身を乗り出して眼下を覗きこみたくなってしまう。僕がしばらく眺めて満足すると、今度は背後でゴソゴソと人の動く気配がある。背後はやはり青年だ。灰色の目をして、どこか愁いのある顔立ちをしている。尖った大きな鼻が窓ガラスにつかない程度に体を乗り出し、携帯電話のGPS機能を駆使して現在地を割り出そうとしている。
 あるときは雲が帯状に、またある時は青と白の二食だけが、そしてある時は凍りついた海と山稜を描く氷河が模様を描いている。街が見えることもあれば、海上に船の軌跡が見えることもある。僕の頭が引っ込むとまた、前の青年がしげしげと外を覗きこむ。
 まるで奇跡のようだ。あるいはこれは奇跡なのかもしれない。
 何度空の旅をしても、たった十時間で陸と海を渡り、初夏から冬へ、そしてまた夏へと戻るこの季節の変遷を上空から座ったまま見ることができるという事実を、僕は現実のものとして理解できない。僕は信じられない思いを抱えたまま窓ガラスにレンズを押しつけ、まばたきをする。かちりと僕の手に、カメラのまばたきの音が聞こえる。はっと僕を振り返った前の青年は次の瞬間にはくるりと新緑色の目を丸くし、にこりと笑う。僕も笑う。

(2013.7.16)
(2013.11.11 加筆修正)